企業のグローバル化に伴い、”様々な文化の境界を越える仕事”を企業の成員が果たすことの重要性が高まっている。本論文は、在米日系企業におけるエスノグラフィに基づき、組織成員が境界拡張の役割を果たす様子を記述し分析、「文化的アイデンティティ交渉」概念フレームワークを構築した。このフレームワークは、境界拡張理論の進展に以下の点から貢献した。境界拡張とは継続的な過程であり、その過程には、境界が問題を生んでいるという意識の顕在化、個々人が自分のもつ文化的知識のレパートリーを自覚すること、そして、各個人が自身と他者の文化アイデンティティとの交渉に積極的に参加すること、こうした視点を導入する必要性を明らかにした。同時に、本論文は解釈的エスノグラフィックなアプローチの認識論的および方法論的基盤を明確にし、そのアプローチが複雑な組織プロセスを理解するための価値を示した。